身元保証人の代行について

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身元保証人

身元保証人の歴史

身元保証人制度は、江戸時代から行われていた「人請」と呼ばれる制度に由来します。 江戸時代は、封建社会のため丁稚奉公する奉公人が、逃亡・義務を履行しない場合に、奉公人を保証する人請を業とする「人宿」・五人組などに、 二重の責任を負わせることが一般的でした。

当時の徳川幕府は、奉公契約には必ず保証人(人請)を立てさせることを強要していました。 保証人(人請)がいない奉公人には、雇入主に対して、訴権を与えることはしないなど、とても厳しいものがありました。

徳川幕府は、この人請に関する多くの法令を制定して、今日の身元保証法の基本が出来上がりました。 その後、帝国議会の審議を経て、昭和8年法律42号「身元保証に関する法律」として公布され、同年10月1日から施行されて現在に至ります。

明治時代になって、日本における身元保証人を引き受ける保険会社が登場しました。 明治37年に横浜火災海上保険株式会社が信用保険営業を開始して、相次いで他の損害保険会社も信用保険の営業を開始しましたが、 第二次世界大戦をはさみ、大きな保険制度にはなりえませんでした。

身元保証人の法律

身元保証人の規定を定めた法律は、昭和8年施行の「身元保証に関する法律」があります。

第1条
引受、保証その他名称の如何を問わず、期間を定めずして被用者の行為により使用者の受けたる損害を賠償することを約する身元保証契約は、 その成立の日より3年間その効力を有する。ただし、商工業見習者の身元保証についてはこれを5年とする。

第2条

  1. 身元保証契約の期間は5年を超えることはできない。若しこれより長き期間を定めたるときは、これを5年に短縮する。
  2. 身元保証契約は、これを更新することができる。ただし、その期間は、更新のときより5年を超えることはできない。

第3条
使用者は、次の場合においては遅滞なく身元保証人に通知しなければならない。

  1. 被用者に業務上不適任又は不誠実なる事跡があって、このために身元保証人の責任を惹起する恐れあることを知りたるとき。
  2. 被用者の任務又は任地を変更し、このために身元保証人の責任を加重し又はその監督を困難ならしむとき。

第4条
身元保証人は、前条の通知を受けたときは、将来に向け契約を解除することができる。 身元保証人自ら前条第1号及び第2条の事実ありたることを知ったときも同様とする。

第5条
裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるにつき、被用者の監督に関する使用者の過失の有無、 身元保証人が身元保証をなすに至った事由及びこれをなすに当たり用いいたる注意の程度、被用者の任務又は身上の変化その他一切の事情を斟酌する。

第6条
本法の規定に反する特約にして、身元保証人に不利益なるものは、すべてこれを無効とする。

身元保証人の契約期間

身元保証は、身元保証人の責任の永続性を制限しています。 身元保証契約で、当事者が契約期間を定めなかった場合、身元保証の契約成立から3年としています(身元保証法第1条)。

これは、会社側としては、3年間従業員を雇用すれば、その従業員の人間性・生活・態度などを知ることができ、 その従業員が信用できるかどうか判断できるとしたために3年としました。

身元保証の契約期間を定めた場合、最長5年とされています。
つまり、最長でも5年過ぎれば、身元保証契約は、解除することができることを規定しています。 これは、民法第626条「雇用の期間が5年を超え、又は当事者の一方若しくは第三者の終身間継続するときは、当事者の一方は5年を経過した後、 いつでも契約を解除することができる」の規定と同様です。

民法でも、5年過ぎれば、労働者・身元保証人から契約解除することを保障しているのです。あまり長い間、人を拘束することは不当になるとした規定です。

  1. 契約社員の場合

     労働基準法第14条では、有期の労働契約(契約社員)は、3年(専門知識等の業務は5年)とされています。
    契約社員の身元保証人は、契約が終了すれば、身元保証人の責任も消滅します。 これは、更新後の労働契約は、新しい労働契約とみるべきであり、当初の労働契約の期間満了とともに、身元保証契約も終了します。

    たとえ、労働契約の更新が暗黙の了解があったとしても、民法第629条第2項「前の雇用につき当事者が担保を供したるときは、期間の満了によって消滅する。 ただし、身元保証金はこの限りではない。」により、身元保証契約は終了します。

  2. 正社員の場合

     会社が用意する身元保証書には、「本人が在職する間、責任を負う」という内容がよくあります。 しかし、正社員の場合、期間の定めのない労働契約になりますので、「在職する間」ということは、結局、身元保証契約についても、 期間の定めのない契約をみなされ、永続的に保証人としての責任を負うことになり許されません。
    この場合、期間の定めのない身元保証契約になりますので、3年が責任を負う期間となります(身元保証法第1条)。

身元保証人の更新

会社が容易する身元保証書には、「自動更新」「別段の意思表示がない場合は、更新する」「自動更新について、異議はございません」 「更新しない旨の申し出ない場合は、更新する事に同意します」等、勝手に自動更新の特約を定めている場合が多いようです。

しかし、いずれの場合も、身元保証人にとって、不利益になる特約であって、身元保証人の提供の有無によって、雇用継続に影響がでるなどを考慮すれば、 雇用継続を望むあまり、身元保証契約も継続しなければならない社会事情がありますので、自動更新を定めた特約は、身元保証法第6条により、無効とされるべきものです。

自動更新の特約は、身元保証人の責任期間を制限した身元保証法第2条の趣旨を全く無視する内容であり、雇用契約の継続を望むため、 自由な意思により、契約更新することは難しいからです。

身元保証人・労働者への請求

労働者が、業務において会社に損害を与えた場合は、会社から損害賠償として損害額の請求を受ける可能性があります。 ここでは、よくある例を記載してみます。

  1. 交通事故

     労働者が業務中に生じた交通事故については、任意保険の加入の有無によって、対応が異なります。 加害者であれば、保険会社が示談・保険金支払いの業務を行い、被害者であれば、その賠償を受けることになります。

    また、交通事故の態様によって、過失割合が異なります。 任意保険に加入している場合、保険金で損害を補填すべきものであり、労働者に補填させることは、保険金で補えない場合に限ります。

    任意保険に加入していなかった場合、労働者が経験のないドライバーであった場合、 会社の求償権は、民法第715条第3項の求償権行使の趣旨を逸脱したものとして、求償権を認めませんでした(昭和46年9月7日東京地裁)。

    アルバイト従業員の事故については、会社の求償を認めなかったものもあります。(平成14年10月30日東京地裁)
    しかし、すべての求償が認められないのではなく、労働者の無謀な運転などによっても異なりますので一概には断定できません。

    最高裁判所は、タンクローリー運転手の事故について、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務内容、労働条件、勤務態度、 加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散について、使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、 損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、求償することができるとしました(昭和51年7月8日最判)。

    タクシー会社の運転手の事故については、労働組合でまとめた事故審議委員会での事故負担金の決定がないとして求償を認めなかった裁判もあります (平成2年6月29日東京地裁)。

    交通事故では、交差点での衝突など、労働者だけの責任だけではない場合があります。
    このような場合、会社に対して、共同不法行為となり債務者は、不真正連帯債務となり、会社は共同不法行為者に損害賠償請求することができます。

    以上のように、裁判所は、会社側からの民法715条第3項に基づく求償権は、かなり制限的に解釈され運用されています。

  2. 留学・進学費用の支払い

     会社は、労働者に対して、業務遂行のため、留学・進学するための費用を労働者に代わって支払うことがあります。 この場合、費用の支払いにあたり、契約書を取り交わす場合が多いのですが、一般的には、「卒業後5年間は、当社で就業する。 退社する場合は費用を返却する」という内容になっている場合があります。

     会社が特定の費用を給付し、一定期間会社で勤務しない場合、損害賠償として費用を支払わせることは、 労働基準法第16条で定めた賠償の予定の禁止となり、違法とされその契約は無効となります。

     留学・進学費用が、単なる金銭の貸借契約であれば、返還義務が生じますが、会社の業務命令で進学した場合には、消費貸借の合意であったとしても、 無効とされています(平成16年1月26日東京地裁)。

     会社は、損害賠償としないで、違約金として請求した場合であっても、民法420条第3項「違約金は、損害賠償の予定と推定する」により、無効となります。
     返還費用の契約は、契約が成立した時点で違法とされ、会社は、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金になります。

  3. 個人情報保護

     会社が取得した顧客の個人情報を労働者が扱う場合、労働者も個人情報保護を負う義務があるのは当然といえます。 これは、民法の原則に従い、信義則・善良なる管理者の注意義務に基づくと考えられます。
    裁判所は、会社の就業規則で定めた秘密保持条項の有無にかかわらず、労働上の義務としてみだりに開示しない義務を負っているとしました (平成15年9月17日東京地裁)。

    これは、役員であっても、委任契約に基づき、就任中は当然に守秘義務を負います。
    従業員が、守秘義務に反して情報開示した場合、会社に対して損害賠償請求義務を負うとしました(昭和61年9月29日名古屋地裁)。

  4. 営業秘密

     会社の営業秘密は、不正競争防止法によって保護されています。
    営業秘密とは、秘密管理性・有用性・非公知性の3つの要件がすべて必要になります。(不正競争防止法第2条第6項)

    労働者が、会社の営業秘密をライバル会社などに漏洩することは、不正競争防止法第2条第1項8号)になり、損害賠償請求される場合があります。 ただし、会社と従業員との間で秘密保持契約がなされていない場合などには、秘密管理性を否定する場合もあります(平成14年4月23日東京地裁)。

業界用語の説明

  1. 身元保証金

    身元保証金とは、労働者が会社に入社するとき、会社に与えた損害を補填するために、会社に預け置く金銭等です。不動産の賃貸借契約の敷金のように、あらかじめ預かっておく制度です。
    身元保証金は、3つの方法があり、金銭・有価証券・不動産の差し入れ方法があります。
    金銭を差し入れるのが一般的ですが、有価証券での差し入れも判例で認められています。

  2. 信用保険

    信用保険とは、会社が加入して、労働者が与えた損害を保険会社に保険金として支払ってもらう制度です。 現在では、信用保険はあまり見かけませんが、会社が信用保険に加入して、さらに身元保証人をつけていた場合には、身元保証人の弁済限度額は、 損害額から保険金受領額を控除した金額とされています。